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一国二制度よ花開け、香港

3.香港

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暮れなずむ香港島


香港政庁がプロパガンダのため毎年実施している外国人招請プログラムを受け、1月12日から17日までのスケジュールで香港を訪問させていただいた。期間が短い割には過密ともいえる日程ではあったが、全体をコーディネートしてくれた労働部の張(Cheung)次官をはじめとするスタッフはもとより、訪問先の各担当者が効率良くかつ誠実に対応してくれたため、アイオープニングで実り多い1週間であった。中国本土の急激な変化を、どこよりも敏感に感じているのは香港である。そして、香港自身、本土の変化に合わせて、普段は慎重に、しかし時には断固として自らを変化させていかなければ「一国二制度」という、願っても無い枠組みを与えられた自らのレゾンデートルを、やがて失ってしまうことを痛切に意識していることを感じさせられた。
香港にとって現在最大の関心事は経済の先行きで、企業の多くが本土側の珠江(Perl River)デルタ地区に生産拠点を移してしまったことによる経済上のマイナスの穴を埋めるべく、本土からの観光客増大に大きな期待を寄せている。最近上海始め本土の3つの大都市について、個人による香港旅行が解禁されたため、観光客誘致には一層熱が入って来た。この他、新聞等のメディアは、主席行政官(Chief Executive)の選挙方法に絡んで基本法(Basic Law)の改正問題を連日報道している。しかしながら、公平に見て、基本法改正問題は、SARSやチキン風邪(avian flu)ほどには一般の関心を呼んでいないようである。
また、イギリス統治時代についてのノスタルジーは現在では一般に余り強いとは言えず、それよりも中国本土との民族的あるいは親族的一体感から1997年7月の中国への返還を素直に歓迎する気持ちのほうがより一般的であるようだ。従って、本土における人権抑圧など、米欧マスメディアが好んで取り上げる問題についても、時間はかかっても徐々に妥当な方向に変化して行くと考える向きが強いようである。

(1) 概況

香港は、総面積1100平方キロ、人口670万という、マカオと同様に、中国の中のごく小さな「特別行政地域」(Hong Kong Special Administrative Region-HKSAR)である。2002年における経済状況は、まずGDPが16億米ドルで、実質2.3%の成長率を達成している。労働力人口は350万(男196万、女155万)で、産業別では、農漁業0.4%、製造業6.1%、電気ガス水道業0.4%、建設業9.0%、残る85%がサービス業である。失業者は25万人、失業率は7.2%、不完全就業者(underemployed、週労働時間が35時間未満の者)数11万人、同率は3.1%であった。労働者の月当たり平均賃金は1407米ドルで、中国本土全体の125米ドル、深せん地区の259米ドルを5倍から10倍も上回っている。

(2) 行政体制

香港は1997年7月基本法(Basic Law)の発効により、中国の特別行政区となった。中央では、法制審議会(Legislative Council)が予算の執行及び行政運営全般についてコントロールし、地方段階では18の地方行政審議会が地方における行政運営を監督し必要に応じ中央に助言する。行政のトップは主席行政官(Chief Executive)で、その下に官房及び各行政部がある。官房は政策及び法案の提出を担当し、各部は法及び政策を執行し、また地域に対し直接サービスを提供する。

主席行政官の任期は5年で、2期までは連続して就任できる。主席行政官の選挙は、基本法に基づき、住民を代表する400名の選挙委員会による間接選挙で選ばれ、本土の中央政府により任命される。現主席行政官は2002年7月に再選されている。主席行政官は、主要な行政スタッフ及び判事を任免し中央政府に報告する。また、中央政府からの指示を実施し、許された範囲での内政及び外交に当たる(外交一般及び防衛などは本土政府が所管)。

行政委員会(Executive Council)の委員は、主席行政官が主要官僚の中から14名、法制審議会及び一般住民の中から5名を任命する。任期は弾力的だが主席行政官自身の任期を超えることはできない。委員会の議長は主席行政官が務め、重要な政策、法案等について主席行政官からの協議に与るが、官僚の任命については関与せず、また予算の最終決定権は法制審議会の方にある。

法制審議会は、香港の国会に相当する機関で、その委員の選挙について基本法は、全住民による直接選挙を究極の形態としながらも、香港の実情に照らして、過渡的な間接選挙について定めている。すなわち、60名委員全体を、第1期(1998-2000)、第2期(2000-2004)、第3期(2004-2007)のそれぞれについて、地域代表が20,24、30名、職域代表が、30、30、30名、選挙委員会により選挙される者、10、6、0名、という数になるとしている。
審議会は、財政、会計監査、倫理の各常設委員会の他、全体、法律、議事の各委員会及び政策毎に18の小委員会(panel)を設けている。

 法制審議会の建物の中にある会議の開始を告げる銅鑼の前でFung事務局長と談笑する筆者

地方組織としては、18の地方全てに地方審議会が設けられ、地方行政について中央政府に勧告する。委員は4年任期で、現職は2000年1月から委員を務めている(選挙された者390名、任命された者102名、かつ手地方における委員会の議長を務め自動的に委員となっている者27名)。

行政組織としては、官房に設けられた11の政策局、並びに67の行政部及び行政庁がある。この中で、政策局を指揮監督する官房長官を筆頭に、財政長官、法務長官及び11人の政策局長等が最も重要なポストである。これらの行政組織に勤務する大部分の者は公務員でその数は2002年末で169600人であった。御多分に洩れず公務員の数が多すぎることが問題になっており、従来から任意退職を促進するなどその減員に努力してきたが、2003年には主席行政官が2006/7年までに160000人まで減少させる方針を明らかにしている。

司法制度は、法制度自体と同じくコモンローの流れを汲んで設置されており、基本的に第一審、控訴審、最高控訴審の三審性で、裁判所は行政から完全に独立している。なお、重大刑事犯罪の裁判では陪審制度が採られる。

(3) 労働問題の現状

労働行政は基本的には労働部が担当するが、特に官房の教育労働力局とは密接な連携を保って実施に当たっている。労働部は、労働長官(Commissioner for Labour)、2人の副長官(Deputy Commissioner)、6人の長官補(Assistant Commissioner)の下,雇用、労使関係、外国人労働者、訓練、安全、衛生等を担当する28の課、17の委員会及び18の諮問委員会があり、総勢約1600人のスタッフで構成されている。これらの諮問委員会で最も重要なものは労働諮問委員会(Labour Advisory Board)で主な労働政策及び法案についての協議に与る。

労働法制としては、雇用、労使関係、安全衛生等に関する12の政令(ordinance)がある他、英国統治時代には英国が批准した大部分の国際条約が香港にも適用されていたが、1997年の返還後も概ね引き続き適用されている。ILO条約については、ILO憲章は勿論のこと、6つの基本条約を含む41の条約が適用されている(内21について中国本土は未批准)。

労使関係は現実問題として安定しており、結果として協調的である。それは、職場における労使関係が本来個別契約により重点を置いており、その反面、労働組合が大規模なストライキを組織できるほど強力でないという香港特有の事情によるものである。
労働組合数は600弱、組織労働者の数は約65万人である。全国的労働団体としては、歴史的に左派の香港労働組合連合(Hong Kong Federation of Trade Unions-FTU)と右派の香港九龍労働組合協議会(Hong Kong and Kawloon Trade Union Council-TUC)によるイデオロギー色の濃い対立の時代があったが、80年代以降は、そのような傾向は希薄となり、中立色の強い香港労働組合総連合(Hong Kong Confederation of Trade Unions-CTU)及び香港労働組合連合(Hong Kong Federation of Labour Unions-FLU)が新たに台頭し、左派のTUCは極端に影響力を喪失し現在では単に名目的な存在になっている。
一方使用者団体としては、香港総商会(Hong Kong General Chamber of Commerce)中国製造者協会(Chinese Manufactures’ Association)香港産業者連盟(Federation of Hong Kong Industries)中国総商会(Chinese General Chamber of Commerce)アメリカ商工会議所(American Chamber of Commerce)等の全国規模の団体があるが、本来の使用者団体は、労働組合と同じく政府への登録によって組合として認められたギルド色の強いセクト的団体から発達してきたものである。

労働条件については、雇用政令(Employment Ordinance(Cap.57))が、雇用契約、賃金、休日、解約等基本的なものを規定している。なお、香港には、一般的な最低賃金制度は存在しない(外国人の家事使用人については最低賃金制度がある)。

現在、香港の最も深刻な労働問題は、失業である。珠江デルタと呼ばれる本土側の著しい発展の中で、投資のための金の流ればかりでなく、香港の比較的少ない製造業もその生産拠点をこれらの地区に移転させている(広東州全体で香港系の企業に1100万人が雇用されている)。新空港建設のようなビッグプロジェクトが終了してしまえば、香港経済はサービス業なかんずく観光業が基本的な支えなのである。一度、SARSのようなマイナス要因が発生すると、観光業は大きな痛手を被る。そして、その関連産業に従事する中高年の非熟練労働者が最も先に失業の憂き目を見ることになる。これらの失業者に対して、どのような対策をとっているのかというのが、今回の主要関心事項の1つであった。
この点、案内していただいた職業安定所、訓練校、地域の再訓練センターの何れも、日本とは一味違うきめ細かさに強い印象を受けたので以下に触れてみたい。

(1) 香港東地区ジョブセンター

香港東地区ジョブセンターは11あるジョブセンターのひとつで、香港の多くの行政機関と同じく民間の複合ビルの一角で、一般来客用窓口、職業ガイダンス窓口、事務所兼個別相談スペースの概ね3箇所に区切られた広さ300平米程度のジョブセンターだった。
一般来客用窓口には、インターネットからでも自由にアクセスできるコンピュータースクリーンが10台ほど設置されている。求職者は、このスクリーンで香港全土の殆どの求人情報にアクセスが可能で、自分の条件に合いそうな求人について、その場で直接コンタクトをとることができる。必要な場合は傍らのコンピューターにインプットされている様式で履歴書を作り、求人者にファックスで送ることもできる。電話による連絡も無料である。勿論、センターには來所せず、自宅からこれらの作業をすることも可能である。一方、求人者側からも、登録された求職者についての情報に自由にアクセスできる。
コンピューターを活用した職業紹介システムは、今や世界中で当たり前になっているが、ここまで利用者の利便を細かく考えたフレクシブルなものはそう多くはない。ことに求人者側から求職者の情報の自由なアクセスは、求人者による選り好みや、求人条件の低下といったマイナス面の虞が無いとは言えないが、当事者による自由な交渉に重点を置いた結果であると言えよう。センターが利用しやすい場所にオープンしていることもあって、平日は行列ができる盛況振りとのことである。なお、例えば広汎な地域にわたる大規模な求人のように、特別な相談を要する場合は事務所の内部での面接による個別の相談サービスもなされている。

リアルタイムの職業紹介については日本はいはば「パイオニア」に近く、それだけに数々の困難を官民の協力によって一つ一つ乗り越えて今日の制度を実現した。しかし、今日では職安行政全体について、官の主導権、公開する情報についてのプライバシーによる制約など、既成観念に囚われ過ぎて変化し続けるニーズに対応が遅れがちになっているように思える。香港は日本に学んだと言っているが、何事も進化は相互作用で次第に質的向上を遂げるもので、今度は日本が香港初め外国から学び返すことも多いのではなかろうか。

 写真は上左から右及び下に、求人票の展示ボード前でTsang補佐から説明を聞く筆者、センターのスクリーンで求人情報をチェックする求職者、特別相談の窓口。

(2)ポクフラム職業訓練校

海岸側には建設中のサイバーシティーを望む風光明媚なビクトリア山の中腹にその訓練センターはあった。全体が観光産業関係の訓練を中心としており、ハード部門の空調、エレベーターなどのインフラの訓練と、ソフト部門のホテルのサービス、レストランの調理などの訓練の2系統のコースがあり、最後に技能検定をして証書を交付している。3から6ヶ月の訓練で、フローで約500名の定員は、全体に高卒程度の若い世代が多いが、無論中高年の失業者も含まれている。
各コースのうち、特に調理部門はインターナショナルでレベルが高く、一般から募った会員に対して、定期的にランチの試食会を企画しているが、格安な料金でバライティーに富んだ料理を味わえるため、大変好評なのである。張次官のご招待により、私もご相伴に与ったところ、その日は南北混合の中華フルコースで、研修生の初々しいサービスもあり、メードインチャイナのワインと共に、鱶鰭、鮑、豚、魚等料理の名は分からないが、ただただ美味しく、午後からの重要なアポイントのこともすっかり忘れて満腹させていただいた。
 
写真左、エアコンの配線訓練、右、ホテルのベッドメーキング訓練


(2) ロックフー再訓練センター

ロックフー再訓練センターは、2000年3月に運営開始したコミュニティーレベルのサービスはかくあるべし、というような地域密着型の雇用サービス施設である。地下鉄の駅の真上に建つ集合住宅の3階という便利な場所で、運営はNGO(The Hong Kong Employment Development Service Limited)にまかせていながら、コンピューターネットワークによる求人情報(勿論ジョブセンターのデータベースに接続されている)あり、パソコン等の手軽な訓練コースあり、自習コーナーあり、PO-BOXまで備えた起業家支援コーナーあり、と真に痒いところに手が届く感じのサービスが提供されている。

 
写真は左が再訓練センターの自習室、右が再訓練センターのあるコンプレックス全体

このような施設は、1992年の労働者再訓練政令に基づき発足した労働者再訓練委員会が経営している物で、現在56の運営主体に計141箇所のセンターを運営委託している。サービスの主なターゲットは、学歴中卒以下の30歳以上の失業者であり、センターは正にそのような対象者が数多く居住している場所に設置されているのである。


現在中国に香港が存在し今まで通りの「香港」であり続けていること自体素晴らしいことである。

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Tracked on August 31, 2007 at 03:18 PM

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